肩関節インピンジメント症候群について

― 専門知識と整体の視点から

1. 肩関節の基本構造

肩関節(肩甲上腕関節)は、肩甲骨の関節窩と上腕骨頭から成る関節で、人体の中でも最も可動域が広い関節です。
しかしその分、安定性に乏しく、筋肉や靱帯、腱板(ローテーターカフ) に大きく依存しています。

肩関節の上には 肩峰(けんぽう) という骨の突起があり、その下の狭い空間を 肩峰下スペース と呼びます。このスペースの中には「棘上筋腱」「肩峰下滑液包」などが存在し、肩の動きに重要な役割を果たしています。


2. 肩関節インピンジメント症候群とは

肩関節インピンジメント症候群とは、肩を挙上したときに肩峰下スペースで腱板や滑液包が挟み込まれて痛みを生じる状態 のことを指します。

「インピンジメント(impingement)」は英語で「衝突・挟み込み」という意味で、まさに肩関節内で骨と軟部組織が衝突し、摩擦や炎症が起きる現象です。


3. 発症の原因

解剖学的要因

  • 肩峰の形状:肩峰には「平坦型」「弯曲型」「鉤状型」があり、鉤状型はインピンジメントを起こしやすい。
  • 肩峰下スペースの狭小化:加齢や姿勢不良、骨棘(骨のトゲ)形成により、腱板が擦れやすくなる。

機能的要因

  • ローテーターカフの機能不全
    肩の動きを安定させるインナーマッスルが弱いと、上腕骨頭が上方にずれ、腱板や滑液包を圧迫する。
  • 肩甲骨の可動制限
    猫背や巻き肩で肩甲骨が前傾・下制すると、肩峰下スペースが狭くなる。
  • オーバーユース(使い過ぎ)
    野球、テニス、水泳など「オーバーヘッド動作」が多いスポーツで発生しやすい。

4. 症状

  • 肩を横や前に挙げたときの痛み(特に60〜120度の挙上で痛みが出やすい=ペインフルアークサイン)
  • 夜間痛(就寝中、特に横向きで肩を下にすると痛む)
  • 動作時の引っかかる感覚(インピンジメント現象)
  • 可動域制限(特に挙上や外旋で制限されやすい)
  • 慢性化すると力が入らない、肩を動かすのが怖いといった機能障害

5. 診断

整形外科では以下のテストや画像検査が行われます。

  • ニアーテスト:腕を前方挙上し、肩峰下で痛みが出るか確認
  • ホーキンステスト:肩関節90度屈曲位で内旋させ、痛みを誘発
  • X線検査:肩峰形態や骨棘の有無を確認
  • MRI:腱板損傷の有無を確認

6. 放置した場合のリスク

肩関節インピンジメント症候群を放置すると、炎症が慢性化し、次のような病態に進行する可能性があります。

  • 腱板炎腱板部分断裂腱板断裂
  • 慢性的な可動域制限(いわゆる「五十肩」様症状)
  • 筋力低下による肩関節の不安定化

7. 一般的な治療法

保存療法

  • 安静・動作制限:悪化させる動作を避ける
  • 消炎鎮痛薬(NSAIDs):炎症や痛みの抑制
  • ステロイド注射:強い炎症がある場合に肩峰下滑液包へ注入
  • リハビリ:肩甲骨の安定性回復、ローテーターカフの強化

手術療法

保存療法で改善しない場合、肩峰形成術(肩峰下除圧術) が行われ、肩峰下スペースを広げて摩擦を軽減します。


8. 整体の視点からのアプローチ

整体院では直接的な「炎症治療」は行えませんが、肩峰下スペースを広げ、腱板や滑液包への負担を減らす ためのサポートが可能です。

① 姿勢改善

猫背や巻き肩を整え、胸郭を開くことで肩甲骨の位置を安定させ、肩峰下スペースを確保します。

  • 胸筋群のストレッチ
  • 肩甲骨内転・下制を意識したエクササイズ

② 肩甲骨可動性の回復

肩甲骨は「肩の土台」。可動性が失われると上腕骨頭に負担が集中します。

  • 肩甲骨のモビリゼーション
  • 胸郭・肋骨の可動性改善

③ ローテーターカフの働きをサポート

筋膜リリースや軽いエクササイズ指導により、インナーマッスルの活性化を促します。

④ 全身の連動性改善

肩関節は体幹・骨盤・下肢と連動して使う関節です。姿勢や体幹の安定性を整えることが、肩の負担を軽減します。


9. セルフケアのポイント

  • ペットボトルを使った肩甲骨エクササイズ
  • 胸を開くストレッチ(ドアストレッチ)
  • チューブトレーニングでの外旋運動(ローテーターカフ強化)
  • 姿勢意識(デスクワークでは背中を丸めず、肩をすくめない)

10. まとめ

肩関節インピンジメント症候群は「肩が挟まる」「ぶつかる」という機械的な現象から生じる障害で、放置すれば腱板断裂に進行するリスクもあります。

医療機関での正確な診断と保存療法が基本ですが、整体の視点からは 「姿勢改善」「肩甲骨の安定化」「インナーマッスル強化」「全身の連動性回復」 が再発予防と改善の鍵となります。