肩関節脱臼について

― 専門知識と整体の視点から

1. 肩関節の特徴

肩関節(肩甲上腕関節)は、人体で最も可動域の広い関節です。腕を前後・左右・回旋と自由に動かせる反面、構造的には「安定性より可動性を優先した関節」といえます。
肩関節は「肩甲骨の関節窩」と「上腕骨頭」で構成されていますが、関節窩は非常に浅く、上腕骨頭の4分の1程度しか覆っていません。そのため、周囲の靱帯・関節包・関節唇、そして筋肉(特にローテーターカフ)が安定性の維持に大きく関わっています。


2. 肩関節脱臼とは

肩関節脱臼とは、上腕骨頭が関節窩から完全に外れてしまう状態を指します。肩関節の脱臼は人体で最も発生頻度の高い脱臼で、全脱臼の約6割を占めるといわれています。

分類

肩関節脱臼は主に以下の方向で分類されます。

  • 前方脱臼(約90%)
    外転・外旋・伸展の動作(例:転倒時に手をついた、スポーツ中に腕を後ろに引かれた)で生じやすい。
  • 後方脱臼(約5〜10%)
    電撃けいれんや発作、強い衝撃で発生。見逃されやすい。
  • 下方脱臼(稀)
    腕が強く上方に押し上げられたときに発生。

3. 発症の原因

  • スポーツ外傷(ラグビー、柔道、バレーボール、バスケットボールなど)
  • 転倒(高齢者では日常生活での転倒が多い)
  • 外力(交通事故など)
  • 筋力の不均衡(インナーマッスルが弱い場合)

4. 脱臼時の症状

  • 激しい肩の痛み
  • 肩関節の変形(肩の丸みが消え、角ばった形になる)
  • 自動運動の制限(動かせない)
  • 腕のしびれや感覚異常(腋窩神経や腕神経叢の損傷による)
  • 腫れや筋肉の緊張

5. 診断と検査

医療機関では以下の方法で診断されます。

  • 視診・触診:変形の有無、可動域制限
  • X線検査:骨折の合併を確認
  • MRI:関節唇損傷(バンカート損傷)、腱板損傷の有無を確認

6. 合併症

肩関節脱臼は再発率が高いことでも知られています。特に20歳以下で初回脱臼を起こすと、8割以上が再脱臼に至るといわれます。

代表的な合併症は以下の通りです。

  • バンカート損傷:関節唇の損傷
  • ヒルサックス病変:上腕骨頭の骨欠損
  • 腱板損傷:中高年に多い
  • 神経損傷:腋窩神経麻痺など

7. 一般的な治療法

整復

  • 医師による徒手整復が基本。外れた骨頭を関節窩に戻します。

固定

  • 整復後は数週間、三角巾や装具で固定。若年者では固定期間を長く設定する場合があります。

リハビリテーション

  • 固定解除後は可動域訓練 → 筋力強化 → 競技復帰の流れ。
  • 特にローテーターカフ(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)の強化が重要。

手術

  • 再発を繰り返す場合やスポーツ選手では、関節唇修復術(バンカート手術)や鏡視下手術が検討されます。

8. 整体の視点からみる肩関節脱臼

整体では「脱臼そのものの整復」は医療行為にあたるため行えません。しかし、脱臼後の再発予防・回復サポートとして以下の視点が重要です。

① 関節周囲の筋肉バランスの調整

肩関節は「インナーマッスルとアウターマッスルの協調性」で安定します。インナーマッスル(ローテーターカフ)が弱いと、外力が加わったときに脱臼しやすくなります。整体では筋膜リリースや関節モビリゼーションを通じて筋の柔軟性と協調性を整えます。

② 姿勢改善

猫背や巻き肩は、肩甲骨が前方に傾き、上腕骨頭が前方へずれやすい環境を作ります。姿勢指導(胸郭の開き、肩甲骨の安定化)によって、肩関節の安定性をサポートできます。

③ 体幹・下肢の連動性の改善

肩は体幹や下肢と連動して動きます。体幹が安定していないと、スポーツ時に肩関節に過剰な負担がかかりやすいのです。整体では骨盤や脊柱のアライメントを整えることも再発予防に有効です。

④ 呼吸と神経調整

交感神経の緊張が強いと筋肉の過緊張を招きやすく、肩関節の柔軟な動きが損なわれます。整体では胸郭の可動性を高めることで呼吸を改善し、神経・筋肉のバランスを調整します。


9. 再発予防のセルフケア

整体院での施術と並行して、患者さん自身が行うセルフケアが非常に大切です。

  • ローテーターカフのトレーニング(セラバンドを用いた外旋・内旋運動)
  • 肩甲骨の安定化運動(肩甲骨を寄せるエクササイズ、プランク)
  • 姿勢改善ストレッチ(胸筋のストレッチ、胸郭の開放)
  • 軽めの可動域運動から段階的に負荷を増やす

10. まとめ

肩関節脱臼は「再発しやすい外傷」であり、単なる整復や安静だけでは不十分です。医療機関での適切な整復・固定・リハビリが第一ですが、整体の視点からは「筋肉バランスの調整」「姿勢改善」「全身連動性の回復」が大切になります。

特に若年者やスポーツ愛好家では再発予防のためのケアが不可欠であり、整体はそのサポートとして有効に働きます。肩の安定性を高めるためには「体幹から全身を整える」ことが最終的なポイントとなります。